
Times Square Re-imagined (2012)
所在地 : Times Square, New York
機能 : 商業施設
デザインチーム : 平野利樹
アシスタント : 大城正史, John Murphey, Yu-Cheng Koh
しかし資本主義が最も極端に表象される場の一つであるニューヨークのタイムズ・スクエアでは、屋外広告スペースの賃料がマンハッタンでのオフィススペースの平均賃料の二〜三倍となっていて、床と建築外皮の価値が逆転し、先述した近代以降の建築原理が無効となる状況が生まれている。この状況に着目し、タイムズ・スクエアを敷地として外皮からの建築設計を試み、またロバート・ヴェンチューリとデニス・スコット・ブラウンによる「装飾された小屋」論に着目し、建築と広告の関係性を再考察することで、新たな建築原理を提示することが本作品の目的である。
One Times Square Buildingの分析
タイムズ・スクエアは、ニューヨーク市マンハッタンの7th Ave.とBroadwayが交差する地点を中心とした地域一帯の総称である。地域内の建築物は数多くの屋外広告によって覆われ、また近年はLEDの高輝度化などの技術発展により大型LEDスクリーンを使った広告が増加している。
7th Ave.とBroadwayの交差点の南側の42nd St. Broadwayに建つOne Times Square Buildingは新聞社であるニューヨーク・タイムズの本社屋として1904年に建設された。しかし1913年にニューヨーク・タイムズ社は移転し、その後建物は売却され、当初ファサードを覆っていたライムストーンは取り外され、かわりに現在は数多くの広告が全面を覆っている。広告によって建築外面は覆われてしまっているため、窓を設ける事は出来ず、基本的にテナントの入居は不可能な状況となっており、全25階のうち現在は地上3階分のみに店舗が入居している。マンハッタンでのオフィススペースの平均的な家賃はスクエアフィートあたり月54ドルであるが、屋外広告のそれはオフィス賃料の1.5~3倍の70〜130ドルと、建築外面における屋外広告のリース費の方がフロアの家賃よりも高いタイムズ・スクエアにおいては、広告スペースの賃貸による収入が全ての階にテナントが入居した場合に得られる賃料を上回っており、結果的に不動産として成立してしまうような状況が生み出されている。
広告面積の増大方法
本作品では先のOne Times Square Buildingを、スラブを中心としたヒエラルキーを確立したモダニズム以降の建築原理の限界が露呈した事例とし、同一の位置を敷地として建築設計を行う。
ここでは延べ床面積ではなく、タイムズ・スクエアにおいてより高い利益が得られる屋外広告面としての建築外皮の表面積を如何に増大させるかを焦点に、建築の基本形態のスタディを行った。単純な箱状のヴォリュームにおける表面積を100%として、ヴォリュームを細分化してゆく事により表面積を増大させてゆく。ここで、細分化された複数のヴォリュームのうち内部にあるものの表面は、街路付近のヴォリュームに比べ、視認性が低くなる事が分かる。またタイムズ・スクエアでの屋外広告に向けられる視線は主に地表面付近であることから、広告面が地表に対して直立する場合、広告の上方は下部に比べ、図像の視認性が下がる事が想定される。以上の点から、各ヴォリュームの下部を細くする操作が導入された。これにより建築のフットプリント内の地表面は街路の延長として開放され通行人が内部に自由にアクセス出来、また広告面が地表に対して傾斜することで、内側や上部の広告面の視認性が確保される。
建築と広告の関係性の考察
フィリップ・ジョンソンによるタイムズ・スクエアの再開発案が発表された後、ロバート・ヴェンチューリ、デニス・スコット・ブラウンおよびジョン・ローチが1984年に提出したタイムズ・スクエアの中心部広場のデザイン案には、単純な箱形としての建築の上に広告としての巨大なリンゴが載るという構成から、ロバート・ヴェンチューリ、デニス・スコット・ブラウンが「Learning From Las Vegas」において提唱した「装飾された小屋」の理論が極めて明快な形で適用されているといえよう。
彼らは広告化された建築を「あひる」、また広告が建物から分離した建築を「装飾された小屋」と定義した。そして「あひる」を「空間、構造、プログラムからなる建築のシステムが、全体を覆っている象徴的形態によって隠し込まれ、歪められている」02)とした。彼らは「装飾された小屋」および「あひる」のどちらも「正当」としながらも、「あひる」としてポール・ルドルフやモシェ・サフディによる建築を取り上げ、それらが「今日において「不適切」である」として批判した。 本作品においては彼らの「装飾された小屋」が、建築と広告が互いに無関心、自律的にすぎるものとして批判し、建築と広告が半自律的な存在として両者が一体となって建築全体の効果を生み出すような関係性の在り方を追究する。
広告面と視点の関係性の考察および広告の空間化
本作品では建築外皮全体がLEDに覆われている。視点と広告面との距離が大きい建築上部はLEDの解像度は粗く、表示面積は大きくフラットであるが、下部に向うに従い解像度はより高くなり、表示面積は小さく、凹凸のある形態になる。 従来の広告はそれぞれについて適切な視点距離が設定されているため、それから離れた位置にいる人は広告の情報を認識出来ない。ここでは無数の焦点を単一の表面が持ち、視点の移動に合わせて異なる情報を伝達する。 幾本もの脚に枝分かれした下層部では、一つの広告が複数の脚にまたがるような、従来の平面的な広告の在り方と比べてより空間的な広告の展開が可能となる。
建築構成
一部の脚にはエレベーターや避難用階段などの垂直動線が収められる。建築上層部へはより大きなプログラムが、そして屋上部には空中庭園が設けられる。建築中央部は採光のためのヴォイド空間で、上部は開け放たれている。上部からは光、雨、雪が入り込み、また直下を走る地下鉄にヴォイドが繋がる事でその騒音、臭気、蒸気が空間内に送り込まれる。
メディア掲載:
suckerPUNCH